癌細胞ではこの増殖シグナル伝達経路の過程において、 タンパク質の変異により増殖シグナルが常時活性化状態になります。
その結果、 細胞増殖の抑制が利かず無制限に増殖が始まります。
また、異常増殖が起こるだけではなく アポトーシスが起こりにくくなってしまうのです。
癌細胞は無制限に増殖するとともに、運動能を亢進させ、原発巣から離脱し、浸潤・転移して悪化していきます。
細胞内で機能している多数のシグナル伝達経路の中で、細胞の癌化と最も密接に関連しているものとしては、 ERK-MAPK経路(増殖シグナル経路)とPI3K-Akt経路(生存シグナル経路)である。
ERK-MAPK 経路での発癌
Ras遺伝子の変異は、ヒト癌の全体の約30%で認められる。
そのうち、 肺がんでは約25%、大腸がんでは約50%、膵臓がんでは90%以上で認められている。
この変異が、癌細胞の増殖異常(細胞が増え続ける)に関わっている。
具体的には、GTP加水分解の減少により、活性型GTP結合型Rasが不活性型に戻ることなく、常にERK signalingを刺激し、増殖因子がなくても常に細胞増殖を活性化している状態が起こります。
がん細胞はEph-エフリン系を利用して浸潤と転移を促進する
受容体型チロシンキナーゼのEphサブファミリーとその膜結合型リガンドのエフリンは、接触型細胞間シグナル伝達を媒介し、細胞移動および組織パターン形成の幅広い調節因子である。腫瘍が進行する際にがん細胞がしばしば利用する。
新たに得られた証拠によって、前立腺がん細胞が、EphA2とEphA4受容体およびエフリン-Aを利用して、移動運動のホモタイプな接触阻止を媒介する一方で、EphB3とEphB4受容体を介して間質細胞上のエフリン-B2を利用して、移動を促進することが示された。
このような過程によって、がん細胞の原発腫瘤からの拡散が亢進し、間質を通るスムーズな移動と浸潤が促進される可能性がある。
この結果は、正常組織内では腫瘍抑制因子としての役割が多く報告されているEph受容体ではあるが、がん原タンパク質へと転換されるという別の例があることを示している。
31 May 2011 AAAS(米国科学振興協会)
PI3K-Akt経路 増殖因子による刺激は、同時にアポトーシス誘導を抑制する経路にも伝わり、細胞死を防ぐ。
このアポトーシス抑制活性の経路はPI3Kのリン酸化活性から始まり、Aktのリン酸化を通して、細胞の生存やアポトーシス誘導を阻害する。
癌抑制遺伝子/PTEN はPI3K-Akt系の機能を抑制する
PTENタンパク質の構造中にはホスファターゼドメインとC2ドメインが含まれることがX線構造解析により明らかにされており、ホスファターゼドメインはPTENの酵素活性中心部位であり、C2ドメインは生体膜のリン脂質との結合に重要な部位である。
PTENタンパク質は広く全身の細胞に発現しているが、特に上皮系の細胞に発現が高い。
イノシトールリン脂質であるPtdIns(3,4,5)P3はPI3キナーゼ(PI3K)により細胞内で合成され、プロテインキナーゼB(PKB)/Aktの活性化を引き起こすことにより多彩な生物活性の発現に寄与している。
PTENはタンパク質に対するホスファターゼ活性は弱く、活性型のイノシトールリン脂質であるPtdIns(3,4,5)P3の脱リン酸化反応を担い、PtdIns(4,5)P2へと変換する。PTENが阻害されることにより細胞内にはPtdIns(3,4,5)P3が蓄積し、発がんに関与するシグナルが伝達される。
実際、癌細胞(脳腫瘍、乳癌、前立腺癌)においてはPTEN遺伝子に変異などの異常が見つかっている。
TGFβ/SMAD系
TGF-βスーパーファミリーの因子は2種類のセリン/スレオニンキナーゼ型受容体に結合し、Smadを介してシグナルを伝えるが、リガンドの種類に比べて受容体やSmadの種類は少なく、シグナルは細胞内では共通の経路を介して伝わる。
一方、Smadはさまざまな細胞内分子と結合することによって多様性を発揮する。
TGF-βは多くの細胞の増殖を抑制する。
これらの分子に異常が起こると、癌をはじめとするさまざまな疾患の原因となります。
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