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細胞外マトリックスは、癌増殖に大きく関係

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漢方医学療法について
細胞外マトリックスは、癌増殖に大きく関係
細胞外マトリックスとは、実細胞の外に存在する超分子構造体です
多細胞生物であるためには組織中の細胞と細胞の間、あるいは細胞集団と細胞集団の間のすきまを満たす物質が必要です。
この物質を細胞外マリックスと呼びます。
細胞外マトリックスは細胞の存在するところにはかならず見られます。
したがって全身のあらゆる臓器に存在します。

この物質は、臓器を支持したり、境界をつくる役割以外に細胞の生存環境を形成しています。
それ故に細胞が移動したり、細胞の接着、細胞の分化、増殖にもこの物質が関係しているのです。

その結果、細胞外マトリックスとは、発生、創傷治癒、生体防御、組織構築、がんの転移、加齢、免疫反応の場に関連した生命活動にかかわる学問が最近注目されるようになりました。

細胞外マトリックスとは、実細胞の外に存在する超分子構造体です。
通常ECMと略され細胞外基質、細胞間マトリックスとも言います。
ヒトの細胞外マトリックスが見られる顕著な成分は、コラーゲンプロテオグリカンフィブロネクチンラミニンといった糖タンパク質(一部は細胞接着分子)です。

間質にはI型コラーゲン、プロテオグリカン(バーシカン、デコリンなど)、フィブロネクチンなどが顕著です。
軟骨を作る細胞外マトリックスの主要成分はII型コラーゲン、プロテオグリカン(アグリカン)、ヒアルロン酸リンクタンパク質などです。
間質(結合組織)と上皮(実質)の間などに見られる基底膜には、IV型コラーゲン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(パールカンなど)、ラミニン、エンタクチンなどが見られます。

脳の主要な細胞外マトリックス成分はコンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヒアルロン酸、テネイシンなどの糖タンパク質です。
細胞外マトリックス成分をもう少しわかり易くする為に身近な革製品で考えてみましょう。
物理的・機械的役割として本質的機能を担っています。
この本質的機能はコラーゲンという線維タンパク質が発揮しています。

即ち細胞外マトリックスを構成する主要な成分はコラーゲンです(熱を加えると高次構造の変化を来たし、ゼラチンと呼ばれます)。
正常な皮膚を引っ張ると伸びて、離すともとに復しますが、弾力を持つバネの役割はエラスチンという線維タンパク質が担っています。
食べ物として、トリの皮を考えて見て下さい。
乾燥するとひからびてきますが、新鮮なトリの皮は水気があるでしょう。
この水は細胞の中の水分もありますが、細胞外マトリックスにその大部分が含まれています。
そして、この水はプロテオグリカンというタンパク質と多糖体から構成されている分子に結合しています。
その他多数の糖タンパク質も存在します。


最近の遺伝子工学の手法や従来のオーソドックスな生化学的研究により、当初考えられていたコラーゲンは、臓器の違いによって異なった分子種が存在することが明らかとなり、見つけられた順番にギリシャ文字の番号が付けられています。

I型コラーゲンは皮膚から最初に見出され、古くより物理学的な興味の対象で研究されてきました。
電子顕微鏡でみるときれいな規則正しい縞模様が見えるのが特徴で、コラーゲンのアミノ酸の配列にその鍵があります。
そのアミノ酸配列では3つ毎にグリシンが配置されています。

このI型コラーゲンは2本の同一鎖と1本の異なった鎖がラセン構造をとることが判明しましたが、異なった鎖で出来上がっていることを見出したのは日本人で、戦前のまだ物のない時代でした。

次に見出されたII型コラーゲンは軟骨のコラーゲンで、I型コラーゲンと異なり同一の3本の鎖から構成され、I型コラーゲンの鎖のアミノ酸組成と異なることが見出されたのは1969年のことであります。

その後、臓器特有のコラーゲンの存在が次々に見出され、遺伝子工学手法の発展と伴にコラーゲン分子種は、約20種その遺伝子は約30存在することが明らかとなっています。

この様に細胞外マトリックスを構成するコラーゲンに多くの種類があることは、各々異なったコラーゲンとしての役割があることを意味しています。
言い換えるとこれらコラーゲンは各々の遺伝子に支配されており、遺伝子の異常は機能障害、即ち色々な臨床症状を示す病気を招くことになります。

コラーゲンを産生する代表的な細胞は線維芽細胞と言われています。
この線維芽細胞のコラーゲンの遺伝子を発現させる種々の生体内分子が知られています。
おそらく今までに傷を受けて経験したことと思いますが、傷を受けて欠損した組織を埋める様に出血します。
出血の後、血液は凝固しますが、この凝固には血小板が関与していることはご存知でしょう。
この血小板の中に線維芽細胞や血管の内皮細胞を呼び寄せる作用があります。

さらに傷を受けることにより局所に炎症が起こるために、炎症性の細胞が毛細血管から出きます。(後述オンコーシス参照)
欠損した部分を補うために血小板や炎症細胞、内皮細胞からコラーゲンを産生するように線維芽細胞に指令がでます。
この指令の主な因子がTGF-βと言われる分子です。(TGF-βは、後述血小板参照)

線維芽細胞の膜面に存在する指令を受ける部分(リセプター)にTGF-βが結合するとコラーゲンを始めとする細胞外マトリックス成分を産生する遺伝子が働きはじめ、コラーゲンが組織に沈着します。
この新しく出来た組織を肉芽組織と言います(一般の人はこれを肉がもりあがると表現しています)。
やがて傷口の周囲から薄い皮膚が伸びてきますが、ふけの元である基底細胞が肉芽組織の上に基底膜と言う新たな細胞外マトリックスの成分を形成し、それに沿って移動してきます。
この基底膜成分は基底細胞と線維芽細胞から合成された分子の複雑に絡み合った構造で出来ています。
従って基底膜が出来ないと、基底細胞の移動が起こりません。
やがて基底細胞の分裂から、棘細胞への分化がおこり、創傷治癒が終了します。
新しい傷は盛り上がっていたことを経験した事があるでしょう。
しかし、やがてそれも平坦になったでしょう。
これは細胞外マトリックスが分解され、再構築が起こるためです。

癌細胞が増殖・浸潤・移転を起こす場合もマトリックス成分を分解することが必要です。
マトリックス成分を分解するのがマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)です。

癌の増殖・浸潤・転移を止めるには、マトリックスメタロプロテアーゼを阻害することです。

コラーゲン線維が出来すぎると臓器線維症という病気を招き、出来ないと支持機能が失なわれます。
ものを分解することも生体にとり重要なことですが、悪性腫瘍の転移・浸潤がおこるのも困ったことです。

これからは、遺伝子をうまく抑制して病気の克服がまたれています。
しかし細胞外マトリックスの理解はまだまだ不完全で、21世紀に向けてのおおきな研究テーマと言えましょう。


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